『「二元代表制」に惹かれて』をいただきました。
高沖さんから、『「二元代表制」に惹かれて』(公人の友社)をいただきました。ありがとうございました。下記は、読後の感想です。
---
同著は議会基本条例のテキストである。学者が書くような机上のテキスト(学問)ではない。実体験の中から登場した実践的な議会基本条例のテキストである。議会基本条例の制定を検討している読者にとっては、とても有効に働くだろう(既に議会基本条例を施行している議会にも役立つ)。特に著者が抱える悩みはリアルに実感できると思う。そして著者の経験から、それらの悩みにも、過去を振り返りながら解答を示している。
同著は、議会基本条例とは何かからはじまり、二元代表制の意義、附属機関の設置、反問権・反論権の規定、議会基本条例の最高規範性、議会事務局体制の強化など、様々な観点から実践的に考察している。議会基本条例を中心としているものの、議会全般を取り扱っているため、議員は一読することを薦めたい。なお、かなり読みやすい文章であるため、気分的に気負うことはなく、スムーズに読み進めることができると思う。
著者は法学部出身である。その意味では行政法的な観点が強いのかと思われる。が、実は行政学的な勢い(?)が強い。
一般的に行政学に軸足のある学者は「行けるところまで行って、既成事実を積み重ねて国も変えていこう」と考える傾向が強い(そして、たまに勇み足をしてしまう)。一方で行政法を専攻する学者は、極めて慎重であり「一つひとつ丁寧に進めましょう。国の法体系にない場合は、より慎重にしましょう」というタイプが多いような気がする(その結果、結実しても時代遅れとなってしまうことがある)。 例えば「二元代表制」という5文字を議会基本条例に書き込むとしよう。行政学の場合であれば「書き込んでいいんじゃない。現実はそうなっているし、明文化したほうがいいよね」と捉える。一方で行政法の場合は「ちょっと待ってよ。国の法体系のどこに『二元代表制』という言葉が使われているのだろうか。もっと慎重に考えなくちゃダメでしょう」という発言をする学者が多い(分かりやすくするために極論している)。
同著の中でも、同様なことが言及されている。著者には失礼かもしれないが、著者の立ち居地はほとんど行政学学者であり、ちょっと行政法学者という感じである。
経済学者のアルフレッド・マーシャルは「cool brain & warm heart」(冷徹な頭脳と温かな心)という言葉を残している。条例を含む政策づくりには、この思想がとても重要である。地方自治体において、住民の福祉を増進させていくためには、政策づくりの過程で、個々人が持つ「冷徹な頭脳」を駆使して様々な角度から問題を解剖し発見しなくてはいけない。ここでは極めて冷静な視点が求められる。しかし、この「冷徹な頭脳」だけによって構築された政策は、血の通った温かい政策ではない。わざわざ人がつくる必要はなく、パソコンに任せてしまえばよい。
政策づくりは「冷徹な頭脳」で客観的に判断しつつ、「自分たちが勤務する地方自治体をよくしていくんだ!」という血の通った「温かな心」を持たなくてはいけない。重要なのは、「冷徹な頭脳」と「温かな心」のバランスである。
著者の高沖氏は、この両視点を持っている。同著から議会基本条例に限らず、様々な示唆が得られると思う。 同著は、「cool brain & warm heart」が凝縮されている。ぜひとも、同著を手にとっていただきたいと思う。
| 固定リンク
コメント